「東京電力の変節」後藤秀典著/旬報社
「東京電力の変節」後藤秀典著/旬報社
2011年の東京電力の原発事故に対する賠償を求める裁判で、東電は厚かましくも原告の避難者を攻撃していると知って、事故直後の東電の株主総会を観戦した時のことを思い出した。
「毎日新聞」の依頼で私がそれに臨んだ記事は同年6月30日付の夕刊に掲載された。
〈壁の注意書きに「撮影、録音、配信につきましてはご遠慮願います」。「これ、どういうこと。あれだけの事故を起こしたのに」。佐高さんが声を上げた〉
こう書かれているが、私が驚いたのは、この注意書きに記者の誰も文句を言わないことだった。
あれだけの事故を起こした東電にこんな貼り紙をする資格はない。書くなら「撮影、録音、配信すべて結構です」だろう。それよりも、どうしてこれに記者たちは違和感を抱かないのか。広告に裏打ちされた「安全神話」をタレ流しされている間に「おかしい」と疑う、最も大事な感覚を失ってしまったのか。
池上彰も2013年に「週刊文春」で東電社長(当時)の廣瀬直己と対談した時、事故のことは何も聞かなかった。
「答えは決まっている」とのことだったが、私はそれはおかしいと追及した。池上は、聞かなかったのは「ジャーナリストとして未熟だ」と叱られてるんですね、と私との対談で居直り的逃げを打った。
ジャニーズの問題以上に、原発とその事故の問題でのメディアの責任は大きいだろう。
この本で特筆すべきは、最高裁判所と国、そして企業(東電)をつなぐ5大法律事務所と呼ばれるビジネスロイヤーの存在を明らかにしたことである。
たとえば最高裁判事を退官した千葉勝美は5大法律事務所の一つの西村あさひ法律事務所の顧問になったが、千葉は、昨年6月、国と東電を被告とした原発事故避難者訴訟で「国に責任はない」と判決を下した裁判長の菅野博之を最高裁事務総局時代に指導する立場にあった。巨人阪神戦で審判が巨人のユニホームを着ているような話だが、経産省の官僚や裁判官がみな東電のユニホームを身につけているのである。
この本に私が唯一不満なのは「変節」ではなく、それが「本質」もしくは「正体」だということ。あの時、主張したように東電は破産させるべきだった。 ★★★(選者・佐高信)