「喫茶おじさん」原田ひ香著
「喫茶おじさん」原田ひ香著
松尾純一郎は57歳。大手ゼネコンの社員だったが55歳で早期退職。一生に一度くらい自分の好きなこと、やりたいことをやろうと、妻の亜希子の不安を押し切り、中目黒の高架下でカフェを始めたが、半年でつぶした。亜希子は千葉の近くに住む大学生の娘、亜里砂の家に同居すると言って出ていったきり、帰ってこない。趣味もない純一郎は喫茶店巡りを始める。
ある日、入った新橋のカフェで、クリームソーダを注文した。グリーンのソーダ水の上に丸いアイスクリームが浮いている。この美しさをとどめておきたいとスマホで撮影し、亜里砂に画像を送ったが返信はない。だが、純一郎は、丁寧な仕事の上に現れる普通のものに宿る美しさを知った。
職も家庭も失った男が喫茶店を巡って人生を考える物語。
(小学館 1650円)