「離島建築」箭内博行著
「離島建築」箭内博行著
日本には、実に1万4125もの島があり、そのうち416島が人が暮らす有人島。各地の島をめぐり、そこで暮らす人々の営みや文化、自然を撮り続けてきた写真家の著者によると、自然の猛威と隣り合わせの離島の建物には、いかに快適に暮らせるかと頭を悩ませてきた先人たちの知恵が随所にみられるという。
本書は、北から南まで島めぐりで出合った建物を紹介するフォト紀行。
北海道の焼尻島の「旧小納家」(現焼尻郷土館)は、1900(明治33)年に住居兼商店として建てられた木造建築。
屋根の両端から尖塔がそびえ、1階には六角形のポーチを備える和洋折衷の建物だ。小納家は、ニシン漁の網元として財を成しており、建物は北日本の沿岸に残る「ニシン御殿」のひとつともいえる。
小納家はこの建物で呉服や雑貨を扱う一方で、旅館や郵便局などさまざまな商売もしていた。出身地の九谷焼の便器を用いるなど細部にこだわり、けやき造りの階段は巡業で島を訪れた横綱・双葉山が踏んでも、ミシリとも音がしなかったという。
東京都の新島には、明治末から大正にかけて島内で採掘された「コーガ石」という天然石材を用いた建物が多く残る。
この石はコーガ石=「抗火石」の名の通り、耐火、断熱、耐水性に優れ、軽くて丈夫。良質なコーガ石は水に浮くことから「かぶ石」(浮かぶ石)とも呼ばれたそうだ。
母屋の屋根までコーガ石でふかれた大正時代に建てられた小久保家など、今も生活に溶け込むコーガ石造りの建物を紹介。
ほかにも、かつて炭鉱で栄えた長崎県の池島に唯一残っていた飲食店「かあちゃんの店」(現在は閉店)など。100島の150以上の建造物を網羅。
知られざる文化や住人たちの物語にも触れられる離島への招待状だ。
(トゥーヴァージンズ 2200円)