「盗伐 林業現場からの警鐘」田中淳夫著
「盗伐 林業現場からの警鐘」田中淳夫著
2019年初夏。宮崎県中部ののどかな山あいを訪れた著者は、異様な光景を目にする。遠目には緑の杉に覆われた小山だが、近づいてみると木立があるのは手前の1列だけで、裏側は丸裸。重機で乱暴にえぐられた土壌は数日前の雨で泥沼と化し、細い丸太が折り重なるように放置されている。盗まれた杉のギザギザの切り口が痛々しい。森は無残に破壊されていた。
違法伐採や森林破壊というと発展途上国の問題と思われがちだが、そうではない。北米でも欧州でも、そして日本でも起きている。森林ジャーナリストの著者は盗伐の現場を歩き、盗伐被害者たちの声を聞き、日本の林業の闇を見た。
まず、盗伐の被害にあっても表沙汰になることが少ない。山の持ち主は、地元で事を荒立てるのを嫌う。盗伐に気づいて警察に通報しても、警察は被害届を受理せず示談を勧めさえする。被害者の多くは盗伐被害以上に警察の対応に憤っている。
林業界の意識も低い。多少違法であっても木材が多く出荷されれば木材市場は活性化する。業界が潤うならそれでいいじゃないか、と盗伐に目をつぶる。業界が行政に求めるのは、改革ではなく、補助金。行政も業界に迎合し、盗伐防止に積極的ではない。「日本の林業は腐り始めた。もしかして盗伐という行為は林業界の断末魔ではないか」と著者は書く。
盗伐者が狙うのは放置林ではなく、時間をかけて育てた人工林。盗伐で荒らされた跡地に再造林されることはなく、次世代の木が育たない。盗伐は「林業の未来を奪う所業」なのだ。
神宮の森の伐採には反対の声が上がっても、地方の山で起きている盗伐は世間に知られてさえいない。この現状に警鐘を鳴らし、森林保護、環境保全への本気の取り組みを促す渾身のノンフィクション。森を愛する著者の怒りと危機感がストレートに伝わってくる。
(新泉社 2200円)