「解剖学者全史」コリン・ソールター著、布施英利監修、小林もり子訳

公開日: 更新日:

「解剖学者全史」コリン・ソールター著、布施英利監修、小林もり子訳

 有史以来、人類にとっての一番の謎は自身の体だっただろう。しかし、17世紀に顕微鏡が、以降、X線や内視鏡、さらにCTスキャンやMRIの登場によって、我々の体は未知の世界ではなくなりつつある。

 そうした機器が登場するまで、人類はどのように自らの体についての知見を積み重ねてきたのか。本書は、解剖学の歴史をたどるビジュアルテキスト。

 現存する解剖学の最古の記録は、約3600年前の古代エジプトの「エドウィン・スミス・パピルス」だが、その中にはさかのぼって5000年前までの記録の写しも含まれているという。

 同文書には、頭蓋の損傷が体の別の部分に与える影響などの記述のほか、脊椎のケガに関する近代的な診断プロセスや、心臓の鼓動と脈拍の関係なども記されている。

 以降、医学の父としておなじみのヒポクラテス(前460ごろ~前370年ごろ)や、現在のトルコに生まれ静脈血と動脈血の違いについて最初に論じた解剖学者で天才外科医のガレノス(129~216年)にはじまる、解剖学の歴史を詳述。

 杉田玄白らの訳書「解体新書」の2年前(1772年)、河口信任によって京都で出版された日本で最初の近代的な解剖書「解屍編」や、近代において麻酔を用いた最初の外科手術を行った華岡青洲の外科治療の記録集「竒疾外療図卷」(1837年)なども網羅。

 ほかにも、1937年の出版当時、史上最高の出来栄えと評判の解剖図が収録されていたが、ナチスによって処刑された犠牲者の死体を参考にして描いたため絶版となっているオーストリア人ペルンコップの「臨床局所解剖学アトラス」など、負の歴史にも触れる。

 解剖学者らの未知なるものへの探求心に脱帽。

(グラフィック社 4290円)

【連載】発掘おもしろ図鑑

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    明石家さんま100億円遺産「やらへん」でIMALU“親ガチャ”失敗も…「芸能界で一番まとも」と絶賛の嵐

  2. 2

    “年収2億円以下”マツコ・デラックスが大女優の事務所に電撃移籍? 事務所社長の“使い込み疑惑”にショック

  3. 3

    大谷の性格、「俺は知ってるけど言えない…」水原元通訳の父親が投げかけた重大な問題・素朴な疑問

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    「もしもピアノが弾けたなら」作曲家・坂田晃一さんが明かす西田敏行さんの知られざる逸話

  1. 6

    山本由伸、佐々木朗希もゾッコン!ドジャース「生きた教材」サイ・ヤング賞左腕の指導力

  2. 7

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  3. 8

    ジャパネットたかた創業者の高田明さんは社長退任から10年…「あと40年、117歳まで生きる」

  4. 9

    セクハラ・パワハラの生島ヒロシ降板で「スポンサー離れ」危機のTBSラジオが“敏腕営業マン”も失う

  5. 10

    大谷も仰天!佐々木朗希が電撃結婚!目撃されたモデル風美女に《マジか》《ビックリ》