「FRIDAY」カメラマンはなぜ動物写真家に転身したのか?
■報道も動物も「テクニックと機材が同じ」
実は小原氏のように報道の現場から動物カメラマンにシフトする例は海外では珍しくないという。
「必要とされるテクニックと機材が同じということもありますが、報道で評価される写真はリスクを顧みない若造が現場の最前線でたまたま撮れた一枚だったりする。30代になって、場数を踏んで物事の分別がつきはじめると途端に怖くなり、テーマを変えるカメラマンは多いのです。僕らの世代でいまだに報道の現役は宮嶋茂樹ぐらいですね」
カナダの流氷での取材は25年に及ぶ。しかし、温暖化の影響は年々深刻さを増していて流氷は減る一方。今年はついにアザラシの撮影ができなかった。そこで国内では北海道のみに生息する“雪の妖精”シマエナガの存在にひかれていく。胴体部分だけでいえば日本最小の鳥。動きも俊敏で2秒と同じ場所にとどまっておらず、カメラマン泣かせだ。
「だからこそハマった。報道カメラマンの原点である“人が撮れないものを撮ってやろう”魂に火が付いたってわけです」
そうして前人未到のシマエナガの巣立ちの撮影に挑んだ小原氏。撮影は5月、2週間カメラを構え続けても撮れるのは一瞬だけだ。親鳥やシマエナガの天敵であるカラスなどに見つからないよう細心の注意を払って挑んだ成果をまとめ、今月1日に写真集「シマエナガちゃん」(講談社ビーシー刊)を出版した。
「彼らは人の気配にとても敏感なので、撮影する際は距離を置きます。カメラは巣の近くの草木の茂みに隠して固定し、その横にビデオカメラを設置。僕は巣から20メートルほど離れた車の中で待機し動画で様子を確認しながら、シャッターチャンスに備える。この手法は『フライデー』時代の張り込みのノウハウを駆使したもの。隠れて撮影するプロ、人が撮れないものをどうやって撮るかと考えるプロ、そしてかわいい動物を撮るプロとして、今回の写真集はカメラマン人生のすべてを注ぎ込んだ作品です」
国内外を飛び回り、被写体にのめり込む日々。結婚は3度目で、現在の生活は「1980アイコ十六歳」の著者で、大学教授でもある妻の堀田あけみさんに支えてもらっている。
「成人前の子供が3人いますが、僕も含めた一家5人、カミサンに養ってもらっています。今回の写真集の写真も家族が一枚一枚選んでくれた。僕の良き理解者である家族は『写真家・小原玲』のスポンサーであり、プロデューサーでもあります」
家族の話題になると途端に相好を崩し、目尻を下げる身長180センチの大男が、体長14センチのシマエナガ以上(?)に可愛らしくみえた瞬間だった。
▽おはら・れい 1961年、東京生まれ。茨城大学人文学部卒業後、「フライデー」専属カメラマンを経て、フリーランスの報道写真家として活動。アザラシの赤ちゃんとの出合いを機に動物写真家に転身。著書・写真集に「アザラシの赤ちゃん」(文春文庫)、「流氷の物語」(河出書房新社)、「流氷の伝言―アザラシの赤ちゃんが教える地球温暖化のシグナル」(教育出版)など。