イーストウッドが「運び屋」で活写“メキシコ国境の壁”問題
しかし、こうした背景の中で台頭してきた強硬派のトランプを嫌うハリウッドでは、やがて『リメンバー・ミー』(17年)のようなメキシコ推しの感動アニメや、搾取される移民たちの窮状に同情的な社会派作品が目立つようになります。今回の『運び屋』も、希代の密輸人が主人公ですが、イーストウッド自ら人間味たっぷりに演じ、決して絶対悪として描いていません」
■「古き良きアメリカ」
主人公アール・ストーンは、家庭を二の次にして長年家業のユリ栽培に打ち込んできたが、ネット時代に対応できず窮地に陥ってしまう。カネさえあれば家族も仕事も取り戻せると考えた彼は、偶然知り合った男が勧めてきた「簡単な荷物運び」の高額バイトを始めるが、実はそれは怪しまれない「運び屋」を探すマフィアからの誘いだった。
「イーストウッドは主人公アールを、愚かではあるが、古き良き時代の鷹揚なアメリカ人として肯定的に描きます。たとえ善人でなかったとしても、必死に生きてきた人間をむげに否定せず受け入れる。そんな監督の懐の深さにほっとさせられる良作です。彼は思想的には保守派といわれますが、トランプのような排外主義にはくみしていません」(前出の前田氏)
メキシコ国境周辺を舞台にした映画作品の多さが、関心の高さを物語る。米国が誇る巨匠の佳作を見て、トランプ大統領は大いに頭を冷やすべきだろう。