がんで亡くなった旧友の病気を知っていたら役に立てただろうか
■本当の彼を知らなかったのではないか
私が下宿先を転居してから、M君とは少し遠のきました。
卒業が近くなって大学紛争の問題があり、学生の中でも意見が違って、それぞれグループがあったように記憶しています。しかし、M君も私もそれにはあまり関わらなかったと思います。
私は「社会が良くなるためにはデモ行進に参加しなければならない」と考えながら、それでも「警察に捕まったらどうしよう……親はどう思うだろう」などと悩んだりしていました。弱虫で、それでいて悩む……自分でも困った性格だと思っていました。結局、M君とは大学紛争などのことで議論することはありませんでした。
M君は、卒業後は大病院で腕を磨き、帰郷してからは地域医療に大変貢献されたのだと思います。私はまもなく上京して、それからはずっと東京暮らしだったので、以後はほとんど会えていませんでした。
私の中にいるM君は洋風で、奥さんからのハガキに印刷された寅さんのイメージとは違っていました。私は本当の彼を知らなかったのではないか……とも思いました。