太るタイプの2型糖尿病は薬で“治る”時代へ… 専門医に聞いた
「一度発症すると治らない病気」。それが糖尿病の常識だった。しかし、いまはそれが変わりつつある。新たな薬や食事・運動療法への考え方、血糖測定器などの登場により、一部の糖尿病は健康な人と同じように病気による症状や検査異常が消失した寛解≒治った状態になるという。それ以外のタイプでも薬の投与頻度が減り、働き続けることが可能になっている。糖尿病が心配な人はあきらめず、より積極的に検査や治療に取り組むべきだ。東邦大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌学の弘世貴久教授に話を聞いた。
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──糖尿病は治るというのは本当ですか?
「本当です。少なくとも過体重で2型糖尿病を発症している人はその可能性があります。ただし、細い人の糖尿病は難しい。インスリンの絶対量が不足しており、それを増やすには、インスリン分泌を刺激するか、外から補充するしかありません。しかし、過体重により糖尿病を発症した人はインスリンの絶対量は足りているのに、太ったがためにインスリン作用が低下し、相対的にインスリン量が不足している。やせれば、治るチャンスがあります。既に、過体重の2型糖尿病は体重を戻せば、寛解可能とする医学論文が世界中で多数出て検証が進み、海外でも大変注目されています。『元通りにならない』といわれた膵臓の動きも、やせて内臓脂肪が減少し、血糖値が正常値にまで下がれば正常化される可能性があることも研究で報告されています。寛解とは、病気による症状、検査異常の消失状態を言います。寛解は再発リスクはあるものの、健康体とほぼ同じ意味といってよいと思います」
──病期が長くても治りますか?
「残念ながら、病期が長すぎる人は治すのが難しくなります。2型糖尿病の人は、インスリンを分泌する膵臓を常に酷使している状態です。その状態が長く続けば、膵臓の働きが悪くなってインスリンの分泌量が低下し、やがてまったく出なくなることも。その頃になると患者さんはだんだんやせてきます。インスリンが不足して血液中のブドウ糖を細胞に取り込めなくなり、代わりに筋肉や脂肪に蓄えられたエネルギー源を消費するからです。こうなると、健康体に戻すことは難しくなります。ですから、過体重が原因で糖尿病になった人は、診断からできるだけ早い段階に減量することが重要です」
■努力が苦手でやせられない人こそチャンス
──昔から多くの人は食欲に負けてしまい、やせられません。いまになって肥満型の2型糖尿病が治る、というのはなぜ?
「ゲームチェンジャーというべき新たな薬が相次いで登場したからです。SGLT2阻害薬に続き、今年の4月に日本で認可されたチルゼパチド(商品名:マンジャロ(R))という注射薬は、臨床試験において週1回40週間最大用量を投与した場合、1~2カ月の血糖値の平均をあらわすHbA1cが平均5.4%まで低下し、体重が平均11.2キロ減少したと報告されています。しかも、この薬は弱くなった膵臓のインスリン分泌の能力を高め、食欲を抑え、脂肪分解を促進するなど糖尿病患者さんにとって好ましい働きをします。注射だけでこれだけの効果が得られるので、太っていて運動や食事制限が苦手でやせられない患者さんこそチャンスです。適応のある患者さんにはチャレンジして欲しい薬です」