静寂の中で音だけが響く…大相撲「無観客場所」リポート
史上初の無観客で注目を集めている大相撲3月場所(大阪)。連日、さまざまな報道が出ている。本紙(日刊ゲンダイ)記者が改めてリポートする。
今場所を表現するなら「音の場所」だ。報道陣の立ち入りが許されているのは3階のイス席。記者が座ると、痛いほどの沈黙の中、「ジー……」と鳴る蛍光灯の音だけが響く。
そんな静寂を振りはらうように、呼び出しが「に~し~……」「ひが~し~……」と力士の名前を呼び上げる。土俵に上がった東西の力士が踏む四股やまわしを叩く音、呼び出しがほうきで砂を掃く音に続いて、行司も両力士のしこ名を呼ぶ。
館内アナウンスが力士の紹介をし、いざ取組。つっぱり、張り手、ぶちかましと、力士たちのぶつかり合う音は迫力十分。踏ん張った時、あるいは投げられたときに土俵をこする「ザーッ」という砂の音は、稽古場以外で耳にする機会はめったにない。
「ドスン!」と巨漢力士が土俵下に落ちたときの音は館内にこだまする。
力士の声も面白い。
技を繰り出すときの「シュッ」と息の漏れるシャープな音。組み合って息も絶え絶えに「ハアハア……ウウ……」と声にならないうめき声。取組を終え、土俵上や土俵下で「ハアー……」と大きくため息をつく力士もいる。
生々しい音のひとつひとつがリアルに耳に響く。そして再びの静寂とともに、蛍光灯が「ジー……」と“鳴き出す”。無観客だからこそ味わえる、趣深さというものは確かにある。十両以上の関取衆の取組ともなると、カメラマンのシャッター音が激しくなる。沈黙を楽しめるのは幕下以下の取組までだ。