ロッテ佐々木朗希 実戦登板ゼロの理由と「肉体の現在地」
肘の靱帯を再建するトミー・ジョン手術はプロの投手の職業病と思ったら、さにあらず。
さる医療関係者によれば「硬球を扱う中学生にもトミー・ジョン手術を行うケースがある。プロ入りするような球児はアマチュア時代から肘を酷使、プロに入った時点でほとんどの投手は、肘の靱帯に多少の傷や損傷があります」と、こう続ける。
「大学生や社会人はもちろん、高校生もしかり。彼らにとって至上命令である甲子園に行くには、一戦必勝のトーナメントを勝ち抜かなければならない。エースは当然、連投を強いられるし、練習試合にも投げる。野球学校出身の投手は、高校時代に靱帯を痛めているケースがほとんど。プロ入り後の身体検査で靱帯の著しい損傷が露見、『こんなはずじゃなかった』と嘆くスカウトを過去に何人も見てきました。まさかドラフト以前に『肘のMRI検査を受けて欲しい』なんて言えないし、アマ側もドラフト候補の故障は極力、隠そうとしますから」
■「こんなにキレイな靱帯は…」
そんな現状にあってプロ入り後も、傷ひとつない靱帯をもった投手がいる。
岩手の大船渡高時代に163キロをマーク、ドラフト1位でロッテに入団しながら実戦登板がないままプロ1年目のシーズンを終えた右腕・佐々木朗希(19)のことだ。
今季は一軍はおろか二軍でも登板なし。5月末にシート打撃で160キロをマークしながら、体の張りを訴えてペースダウン。その後、ほとんど話題にならないままシーズンを終えたから、ひょっとしたら故障したのか、靱帯を痛めたのではないかといぶかる声も上がっているものの、「痛めるどころか、彼の靱帯には傷ひとつないと聞きました。『プロのピッチャーでありながら、こんなキレイな靱帯は見たことがない』と専門家たちを驚かせたそうです」とは前出の医療関係者だ。
実戦手前で自らブレーキを踏む
ならば、なぜ、実戦で投げないのか。ロッテOBは佐々木の現状についてこう解説する。
「シーズン中、あと少しで実戦登板というところまでは何度もこぎつけたといいます。プルペンでは150キロを超すストレートを軽々と投げ込むのですが、ボチボチ実戦形式に入るという段階になると、肩や肘に張りが出る。周囲がストップをかける以前に、本人自らブレーキを踏むことが多いそうです」
佐々木は高校時代、米独立リーグでプレー経験のある国保監督のもとで育った。「故障予防のため」(国保監督)と、甲子園出場のかかった3年夏の岩手大会決勝(対花巻東戦)を欠場したことは社会問題にすらなったが、故障する以前に自らブレーキを踏めるメンタルは高校時代に培われたようだ。
■強化された下半身に比べ脆弱な上半身
「本人が自分でブレーキを踏んだのは正解でしょう。プロ入り後のトレーニングの成果か、佐々木の下半身はかなり強化されたものの、肩肘回りを含めた上半身はまだまだ脆弱なようですからね」と前出のOBはこう続ける。
「つまり肩肘の周辺の筋肉はまだ、150キロ超の速球に耐えられる状態ではないということでしょう。いまの上半身のまま実戦で150キロ超のストレートを投げ続ければ確実に靱帯損傷、トミー・ジョン手術を受けることにつながるという見方もあるそうですから。すでに本人にはオフの間に上半身強化に主眼を置いたトレーニングメニューが手渡されています。与えられたメニューをしっかりこなすことによって、肩肘周辺の筋肉がどれくらい強化されるか。一軍ローテ入りは3年後という慎重な見方がある一方で、トレーニングの成果次第では、来季は実戦デビューが期待できるかもしれません」
あくまで「タラ」「レバ」の話だが、早ければ半年後にもファンは球場やテレビ画面を通して佐々木の剛速球を見られるかもしれない――。