オリ山本由伸でノーノー今季4人目“大安売り” プロ野球「投高打低」加速のウラ側
早くも今季4人目のノーヒッターである。
18日、オリックスの山本由伸(23)が西武戦で史上86人目のノーヒットノーランを達成。完全試合をやってのけたロッテの佐々木朗希(20)をはじめ、ソフトバンクの東浜巨(32)、DeNAの今永昇太(28)に続いた。1年間で4人がノーノーを記録するのは1943年以来79年ぶり。まさに快挙の大安売り状態だが、今季の「投高打低」を巡ってはグラウンド内外でさまざまな意見が出ている。
■本塁打数、長打率激減
「ボールが飛ばないのは間違いない」
先日、こう言い切ったのは20日現在、21本塁打でパ・リーグ本塁打王の山川穂高(30)。数年前と比べると、同じ打球速度で打っても飛距離が伸びないという。実際、ここまでの12球団の合計本塁打数は年間1192.6本ペース。昨季の1449本から250本以上も減り、長打率もセ(今季.364、昨季.383)、パ(今季.345、昨季.368)ともに昨季より落ちている。
メジャーでは、一足先に投高打低の傾向が顕著に。飛ばないボールが導入された影響もあり、昨季のノーノーはMLB史上最多の9回(継投での達成を含む)を数え、今季も月間打率が4月.238、5月.238で、各球団の4、5月の1試合平均の本塁打数は1本前後と低調だ。
「飛ばないボール」への“疑惑”については、NPBの井原事務局長が20日、統一球の反発係数に関して規定値内(0.4034~0.4234)であることを明言。ボールの変更を否定したが、パ球団の首脳陣のひとりはこう言う。
「ボールが飛ぶ飛ばないというより、開幕序盤は得てしてフレッシュな状態で投げられる投手が有利。疲労が蓄積する夏場に差し掛かればおのずと本塁打数、安打数は増えるはず。ただ、最近は投手のレベルが格段に上がっています」
投手のデータの活用と指導法に変化
投手のレベルアップについては、「10年前と比べて平均球速が4~5キロアップしている」(球界関係者)との指摘に加え、巨人OBの上原浩治氏が先日のTBS系のテレビ番組でこんなことを言っていた。
「ピッチャーがトラックマンとかの機械を使って、自分自身の研究ができるようになったのが大きな要因かなと思います。回転数だったりを自分で調べることができます」
前出の首脳陣は「投手のデータの活用と指導法に変化が出てきている」と、こう話す。
「直球の球速アップはもちろん、同じ変化球でも微妙に回転数を調整して投げ分ける。ノーノーを達成したDeNAの今永は横の変化量が少ないカットボールを投げるようになった。トラックマンなどのデータで回転数が具体的な数字で表れるので、コーチのアドバイスを基に握りを微妙に変えたり、肘の位置を調整したりすることで、球種一つとっても変化のバリエーションが増えている。一方の打者はあくまで『受け身』の立場。いくらスイングスピードがアップしても、ボールに当たらなければ意味がない。投手ごとに球筋や伸び、変化量などを感覚としてインプットしているため、『あれ? 今までと違うな』となって対応しきれない。今はそういう流れが続いています」
パ球団のスコアラーは、「配球の変化」「打者の打ち方」を理由に挙げる。
「メジャーでも流行している『フライボール革命』が日本でも一般的になり、打者が低めの変化球を打つため、アッパー気味のスイングをするようになった。しかし、昨季あたりからその対策としてホップ成分が大きい直球を高めに投げ込むケースが増えつつある。打者がこれに対応しきれていないのが実情です」
■「6回100球」でお役御免
こうした理由以外にも、守備シフトの徹底によって、安打数が減っているとの指摘もある。評論家の高橋善正氏が言う。
「最近の先発投手は中6日でローテを回りながら、『6回100球』前後でお役御免というケースが増えている。登板前から『6回まででいいぞ』と監督やコーチに言われれば、ヨーイドンで100%に近い力を出せる。そのパワーが結果的にノーヒットノーランを達成するような好投につながることはあるでしょう。中7日、中8日という登板間隔で投げるケースも増え、中継ぎにも休養日が設けられ、フレッシュな状態を保てることも大きい。調整も投手は走り込みや投げ込みなど、自分のペースを優先してパフォーマンスを上げていくことができる。野手は毎日試合に出て、野手全体で打撃、守備、走塁の練習をやるので、個人での練習時間は少なくなりがち。コロナ禍による制約もあり、全体的に練習時間が減っているのは間違いないでしょう」
ただでさえ投手有利の状況が揃う上に、「中6日以上」で「6回100球」でいいならこんなにラクな商売もない。一昔前は野手が優遇されてきたカネの面でも、事情が変わってきたのだからなおさらだ。今季の年俸1億円以上の日本人選手は80人。そのうち野手は43人で投手は37人だが、投手の人数が逆転するのは時間の問題だろう。
■1~2年は続く「投手天国」
「チームの勝敗は『投手力が8割』とすらいわれる。いくら打っても負ける時は負けるが、投手が0点に抑えれば少なくともチームは負けない。投手の方が勝利への貢献度が高くなる分、より評価されやすい傾向がありますから」(高橋氏)
球界では「あと1~2年は『投手天国』が続く」との声もある。投手と野手の差はますます広がりそうだ。