享年74 数多の教え子はもちろん、その両親や実家のことまで把握していた高橋昭雄東洋大野球部前監督の矜持
「こらっ! なんだ、その打球の追い方は! こっちに来い!」
埼玉は鶴ヶ島の東洋大野球部グラウンド。ネット裏の一室から傍らのマイクを掴むなり、いきなり怒鳴り声を上げたのは高橋昭雄監督だった。
プロ野球界に進んだOBの大学時代の話をしている最中。こちらを向いて「アイツは深夜、寮の脇の林の中で黙々と……」と言いかけたところで突然、練習中の野球部員を叱り飛ばしたからビックリ。こちらを見ながら、なぜ、グラウンドにも目配りできるのかと尋ねると、「どうってことありませんよ」と笑った。
行きつけの居酒屋、蕎麦屋で、焼酎の緑茶割りを飲みながら、とにかく饒舌だった。東洋大の監督になったのが23歳のとき。就任1年目に入学してきた落合博満をはじめ達川光男、松沼兄弟、桧山進次郎、清水隆行、今岡真訪、鈴木大地、原樹理……監督を務めた46年間でプロに進んだ教え子は数知れず。彼らの大学時代のエピソードはもちろん、両親のことや実家の職業まで克明に記憶していた。就任当初は寮に住み、やがてグラウンド付近にアパートを借りた。ときには夫人も交え、部員たちと家族同然に接してきたからこそだろう。