「相手にまわしがないと思いなさい」栃木山から今に伝わる春日野部屋のおっつけ
「師匠からよく昔の師匠の話をしてもらえる」
元栃木山から元栃錦、元栃ノ海、現在の元栃乃和歌と代替わりしても教えは受け継がれてきた。現春日野親方は「高校や大学で実績があって入ってきた者にも、まず低く当たり、おっつけて押すことを教える」という。元関脇栃煌山の清見潟親方も「師匠からよく昔の師匠の話をしてもらえる」という環境で、基本をたたき込まれた。
「差すにもまわしを取るにもおっつけて、こちらがいい体勢で相手に圧力をかけてから」
高砂部屋は押し相撲が多いように、歴史の長い部屋には特徴がある。春日野部屋の力士はそれぞれ取り口が違うが、野球に例えれば、チームとしてのテーマや狙いがあり、その上で各打者が自分の打撃をする打線といったところか。小兵力士や、出し投げに代表される技能派が多いのも、当たって押す力があればこそ。
他の部屋を含めた現役力士では、若隆景のおっつけが注目されたが、けがで長期休場中。幕内上位では若元春に、おっつけながら得意の左四つを狙う取り口が見られる。最初はどつき合いの迫力に目を見張る新しい観客も、大型力士の体が浮き上がるほどのおっつけを目の当たりにすれば、相撲の奥深さにも引かれていくことだろう。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ)1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。