冗舌な風景を支える、無口なデザイン
では、肝心の写真の印刷はどうか? 印刷インキや刷版(本番用の印刷原版)も、一筋縄ではいかない。担当した印刷所・サンエムカラーによると、油性・高輝度インキ+FMスクリーンで印刷されているとのこと。つまり、軽く明るい発色の特殊インキと、写真が持つ「情感」を漏れなく「版」に写しとる高度な技術が使われている。用意周到、読者の視線を写真の細部/深淵へと誘導する、芸の細かさが光る。
ともあれ、写真集を眺めるとき「被写体の魅力」と「再現技術」のバランスに首をかしげることがままある。その点本書は、横長の判型からカバー・本文・インキ・製版まで「鉄板仕様」だ。「必然性」に裏打ちされた寡黙なデザインをご堪能あれ。
鏡のように「反転した世界」について書くつもりが紙面が尽きた。またの機会にぜひ。(いろは出版 2700円+税)
▽みやぎ・あずさ 工作舎アートディレクター。1964年、宮城県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。1990年代から単行本、企業パンフレット、ポスター、CDジャケットなど幅広く手掛ける。