父の青春をめぐるノンフィクションを描いた 目黒考二氏に聞く
数年前、「刑務所の中で一週間泣いた」と書かれた父のメモを読んだ著者は、これまで抱いていた父親像とは大きな隔たりを感じた。
「僕の知っている父は、自宅でただ黙々と本を読んでいるだけ。何がおもしろくて生きているんだろうと思っていたんです。ところが、父には若いときに地下に潜って一緒に生活する女性もいたわけですからね。そのとき、父はどんなことを考えて生きていたのか。父が作った俳句に僕の生まれた時期の句がないこと、そして、初代が死んだときに父が1週間泣いたということにもひっかかりながら、父は戦後の僕たち家族との暮らしをどう思っていたんだろうか、それが一番知りたかったんです」
本書を書き始めたのは、父が亡くなった1991年から6年ほど経ってからのこと。取材のため、父が収監されていた宇都宮刑務所の跡地にも足を運んだ。
「父のことを調べてわかった結論は、その人の真実には近づけないということでした。書き上げた今も、これがあの父親・目黒亀治郎の本当の姿なのかと。いずれにしても、父の青春を書くという作業を通して、父を思い出すことこそが親孝行だったのかもしれません。本なんか出さなくてもいいじゃないかという気持ちでいたときには、街を歩いていると、ふっと思い出すんですよ、小さいときに父と映画館に行って、夜遅く帰るときに風にあおられて、シャッターが鳴る音とか。ところが、本を出してからは1回も思い出さないんです(笑い)。書き終えて気が済んじゃったのか、ちょっとさびしいですね」