「自由に老いる」海老坂武氏
「そもそも、自分がどういう病気で死ぬかわからないでしょ。ぼくの場合は、循環器も血圧も正常なので、ピンピンコロリの幸運には恵まれそうにないんです。がんで死ぬ親族が多いので、自分もがんで死ぬだろうという確信を持っています。がんはある程度、準備できるし、最後は病院に入って死ねばいいから、独り者にとってはありがたい病気です。老衰という可能性もありますが、そんなわからないことを思い煩うより、目先の3年、4年で何をするかが大事です」
もともとお墓見物が好きで、パリのモンパルナス墓地、サルトルとボーボワールの比翼塚、詩人ボードレールや歌手ゲンスブールの墓などを散歩する。
「日本でも谷崎潤一郎や森鷗外の墓を見にいきます。ぼくは今、自分の墓はどんなのを造ろうか楽しみなんです。あの人はお墓に来てくれるだろうか、涙をこぼすだろうかと想像すると、面白いでしょ」
老いの独り旅、案外いいかも、と思える本である。(さくら舎 1400円+税)
▽えびさかたけし 1934年、東京生まれ。フランス文学者。東京大学文学部仏文科卒業、同大学院博士課程修了。一橋大学、関西学院大学教授を経て現在は執筆・翻訳と遊興の日々。著書「サルトル」「加藤周一」「〈戦後〉が若かった頃」ほか。サルトル、ボーボワール、ブルトンなどの翻訳書も数多い。