「となりの漱石」山口謠司著
明年、没後100年を迎える文豪の知られざる素顔を作品や書簡などから読み解く文学エッセー。
漱石は5人の娘の中でも特に四女の愛子を可愛がった。その理由は、胃病を持ちながら甘いものに目がない父親のために、健康を心配する妻の鏡子が隠した甘いもののありかをいつも教えたからだという。そんな日常の点景から、養父の後妻の連れ子・れんへの初恋などの女性関係、「時鳥(ほととぎす)厠(かわや)半ばに出かねたり」との句を送って時の首相からの招待を断った真意、そして財布にはいつもたばこ代と本代程度のわずかな額しか入っていなかったというその懐具合まで。読めば、漱石に、隣人のような親近感がわいてくる。(ディスカヴァー・トゥエンティワン 1000円+税)