「自己免疫疾患の謎」アニータ・コース ヨルゲン・イェルスター著 中村冬美、羽根由訳
現在、世界中を不安に陥れている新型コロナウイルスだが、細菌やウイルスなどの異物が体に侵入した際に防御する免疫機能が弱まると、重篤症状を引き起こすことが知られている。著者はこのシステムを国境警備隊に擬し、時に命令系統の乱れなどによってこの部隊が自国の住民を襲うことがあり、それがバセドー病、関節リウマチ、1型糖尿病などの自己免疫疾患だと説明する。
著者のアニータは、インド人の両親のもと、イギリスのリバプールに生まれる。父母共に医師だったが、母はアニータを産んだ後に指の異常な痛みを覚え、以降、症状は年々悪化し寝たきりとなり、アニータが13歳のときに亡くなってしまう。母を苦しめた病気が関節リウマチという自己免疫疾患だと知ったアニータは、この病気の謎に挑戦することを決意、免疫システムの研究に取り組むべく医学部に進む。
リバプールの病院で実習中にノルウェー人の男性と知り合い結婚。ノルウェーに移住後もオスロ国立病院でリウマチ研究にいそしむ。慣れない土地と言葉、子どもを抱えながらの研究生活は並大抵の苦労ではなかったが、アニータは最愛の母の命を奪った病気の解明とその治療薬の開発のためにつかれたように研究に没頭していく。
そんな中、アニータは関節リウマチにかかる患者の多くが出産後や閉経後の女性であることに注目し、何度かの試行錯誤の後、偶然にも黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンの値が上がると炎症を引き起こすサイトカインの量も増えることに気づく。この2つの値を減らせば、炎症を抑えることができるのでは?
こうして、関節リウマチ治療の新薬に向けての足がかりを得る。とはいえ、そこから先は個人の力ではなく、研究スタッフ、製薬会社のバックアップと資金協力などの問題が控えていた……。
アニータは、自分が発見したことは偶然と運によるものだというが、そうした運を引き寄せる地道な努力こそが、過去、人類を襲ってきたいくつもの疾病を克服する大きな力となったのだろう。 <狸>
(青土社 2400円+税)