「人工培養された脳は『誰』なのか」フィリップ・ボール著 桐谷知未訳
2017年の夏、著者の腕から小さな断片が採取され、試験管内で培養液につけられると、8カ月後、著者の「ミニ脳」ができた。それはレンズ豆くらいのニューロンの塊で、本物のニューロンと同じく、ネットワークをつくって信号を送り合っている。
だが、思考しているのではなく、その信号は一貫性のない雑音で、何も意味していないと思われる。これは認知症のケアの新たな評価ツールの開発のためのプロジェクトなのだ。この「生命」は誰の生命なのか? 正確には、私の生命ではない、と著者は思う。
他にブタの中で培養されたヒトの器官など、バイオテクノロジーによって作り出されたものは「ヒト」なのかと問う、超先端バイオ科学のリポート。
(原書房 2500円+税)