「老いの深み」黒井千次著
「老いの深み」黒井千次著
老いと向き合う日々の点景をつづるエッセーシリーズ最新刊。
80代で出血性の緑内障と診断され、視力が以前のようには戻らないと告げられる。片方だけの目でどのように読み書きをするか、試行錯誤の日が続く。
また、世の中の変化のスピードについていけず薬瓶の注意書きなど小さな活字も読めなくなった。そんなとき、ふと「俺は年寄りなのだから」仕方がないのだと考える。すると、だから許されているのだという和やかな感情が湧き上がる。それはなぜか分からぬが「甘美な波」なのだという。
かと思えば、先輩画家のかくしゃくとした姿に自分はこの人に比べまだ「青二才」に過ぎず、失敗する場がこの先いくつも残されているのだ思う。
後を追う者たちへの道しるべとなるような生きる力をくれる一冊。
(中央公論新社 924円)