「世界ではじめての女性大統領のはなし」ラウン・フリーゲンリング著 朱位昌併訳
「世界ではじめての女性大統領のはなし」ラウン・フリーゲンリング著 朱位昌併訳
初めて相撲の世界大会を見に行ったとき、女子選手たちが躍動する姿に感激した。Tシャツ&スパッツの上にマワシを締めて土俵にあがり、立ち合いでは頭からバチーン! とぶつかっていく。
インド、スウェーデン、ドイツ、ブラジル……各国の女性力士に質問してみた。女性なのに相撲をやるのは大変だったのでは? 彼女たちはポカンとして、質問の意図がわからないようだった。その反応を見てわたしは悟った。こちら側に偏見があると。
女人禁制の大相撲がある日本では「相撲は男性のもの」というイメージが強く、女性のお相撲さんはまだ珍しい存在だ。でもそれは世界基準ではない。「お相撲さんと大統領」と言われて無意識にふたりの男性を思い浮かべる古い脳みそを更新しなければならない。今回この絵本を読んで、心底そう思った。
北欧の小さな島国アイスランドで、世界初の女性大統領が誕生したのは1980年のこと。彼女の名はヴィグディス・フィンボガドッティル。少女時代の夢は「船乗りになること」だった。「女の子にそんなことはできない」と言われて育った彼女が大統領になるまでの軌跡が語られる。子ども向けなので込み入ったストーリーではないが、絵も文章もほがらかで引きつけられる。
アイスランド在住の訳者による巻末の解説も読み応えがある。1975年の「女性の休日」について知るだけでも読む価値があるし、印象深いのは「ヴィグディスが大統領を引退するときには、『大統領は女性がする仕事だと思っていた』と言った子どもがいた」の一文。あぁ、こうやって世界は変わっていくのだ。 (平凡社 2090円)