「箱庭クロニクル」坂崎かおる著
「箱庭クロニクル」坂崎かおる著
シュウコは何に対しても全力を傾ける性格だ。高等女学校を卒業して京橋にある邦文タイピストの学校に通っていたが、先生は林建忠という中国人で、完璧な日本語を話した。
ある日、先生とタイプ打ちの競争をすることになったシュウコは、「勅令」の「勅」を探したが見つからない。先生は法律関係の文章なので「勅」を使う可能性があると考え、予備文字からその活字を用意しておいたため、シュウコより早く原稿を打ち終えた。
その後、上海で騒動があったとき、憲兵が来て先生を連行していった。やがてシュウコは結婚し、ドイツに旅行し、骨董品店で中国語のタイプライターを見つけた。文字盤に新しい活字が3つあった。忘了我(私を忘れて)。(「ベルを鳴らして」)
心に残る6編の短編小説。
(講談社 2090円)