「できることがやや減るだけ」同じ目線、尊厳で接すること
知人の話を紹介しよう。その知人にとっては仕事上の師匠ともいうべき人物が、つい最近アルツハイマー型認知症と診断されたという。知人の師匠は長く出版社で編集者として働いた後、フリーエディターとして多くのベストセラーを世に出した人だ。認知症の診断は本人にとってはまさに青天の霹靂で、一時は塞ぎ込んでいたという。75歳を過ぎたころからやや耳が遠くなったという自覚はあったものの、自分は認知症とは無縁だと思っていただけにショックは小さくはなかった。
それでも、彼の場合、ゴルフ仲間が医者であったことが幸いした。認知症の兆候を疑ったそのゴルフ仲間の進言で専門医の診察を受けたことで早期の発見となった。そして一定の効果が認められているアリセプトを服用しはじめた。年齢の割には柔軟な頭脳の持ち主で「医者がそういうんだから、オレは認知症なんだよ」と現実を受け入れ、医者の指導に素直に従っているという。
認知症の両親を看取った経験があり、多少認知症に関する知識を持つ私の別の知人の「認知症なんて恐るるに足らず、です」という言葉が彼を勇気づけた。新しい情報の入力能力が多少低下すること、物忘れが増えることなどはあるにせよ、脳にラクをさせないことで進行は防げるというサジェスチョンを受け入れ、診断から3カ月を過ぎた現在では、自らの経験を生かして認知症関連の書籍の企画を進めているとか。