「脈が触れる」ご遺体の手首に手を当てた看護師が呟いた
以前のお話ですが、若くてとても優しいMさんという看護師がいました。Mさんは他の看護師とは少しテンポというか、何かが違っていると感じさせるところがありました。もちろん医療事故を起こすようなことはないのですが、周りの医師や看護師はそうした“違い”を感じていました。それでも、医師たちは「Mちゃんだからしょうがないね……」と、むしろ可愛がっていたのです。
ところが、事件が起こりました。ある朝、長く闘病されて終末期だった胃がんの若い男性患者が亡くなりました。大変な悲しみの中で、Mさんともう一人の看護師が死後の処置(今はエンゼルケアと呼ばれる)を行うことになりました。数日間泊まり込んでいたご家族は、処置の間、朝食を取りに近くの食堂に行かれました。
2人で一礼した後、手袋をしたMさんがご遺体の手首に手を当てて言うのです。
「この患者さん、脈が触れる」
もう一人の看護師は「え!」と叫んで急いで脈を取り、先ほどご家族に「ご臨終です」と告げた担当で新人のA医師にすぐ連絡しました。A医師は医局から慌てて病室に戻ってきました。そして、手首を押さえて脈をみます。