がんの「休眠療法」は有効性がいまだ科学的に証明されていない
「患者さんが、がんの『休眠療法』を受けると言っています。体にやさしい治療法らしいのです。この治療法、先生はどう思われますか?」
友人医師からこんな相談がありました。
私は「え? もう、行われなくなったはずの休眠療法が、まだ行われているのか」と驚きました。
休眠療法とは、まだ分子標的治療薬が存在せず、標準治療などという言葉もなかった20年以上前に一時的にはやった抗がん剤の治療法です。
この治療法は抗がん剤をごくごく少量で行います。たとえば、あるがんに対してシスプラチンという抗がん剤を通常は1回50ミリグラム使うとすれば、10分の1の量の5ミリグラムを使う……といった具合です。
シスプラチンは20世紀の抗がん剤治療では最大の効果が得られた薬で、他剤との併用で肺転移のある睾丸腫瘍では70%以上の患者が治癒し、その他各種のがんでも多大な効果が得られました。しかし、嘔気・嘔吐・腎障害などの副作用が強かったのです。これに対し、ようやく効果的な制吐剤が出始めてきた時代に、この休眠療法が出てきたのでした。