妻には言えても医師には言えない…がん患者の心中
病院に着くと、予定されている診察の1時間前には採血とCT検査が終わりました。一息ついて、診察室前の待合のイスに座って待ちました。ここも混み合っています。
壁に設置されたテレビでは、ある病院でコロナのクラスターが発生したというニュースが流れていました。感染しても無症状の人が多いといわれているので、待っているまわりの患者たちにも安心はできません。
テレビに飽きると、スマホに保存してある2歳の孫の動画を見ます。正月から会えていませんが、また大きくなっていて、Kさんにとってこれが一番の希望の星です。
診察予定時間から1時間過ぎても、なかなか呼び出されません。心の中は不安でいっぱいです。
「CT検査の結果が悪かったらどうしよう。あの背中の痛みはなんだったのだろうか? 入院と言われたらどうしよう。病室のベッドには入りたくないな。あの痛みがなんでもなければいいが……。もう早くここから逃げたい。とにかく病気から逃げたい。良い先生だけれど、先生からも逃げたい。病気は俺から離れてくれ! 嫌なんだ。もう、どうだっていいから逃げたい……。そばに座っている患者たちは次々と先に呼び出されていく……もう、検査の結果は出ているだろうに、呼び出されるのが遅いのは、結果が悪かったからじゃないか……」