「認知機能の低下」とは具体的にどんな能力が低下するのか?
「同じ話を何回も繰り返す」「数分前のことも覚えていない」
陳述記憶についてもう少し詳しくお話ししましょう。陳述記憶は、「出来事記憶(エピソード記憶)」と「意味記憶」に分けられます。
出来事記憶は、「いつ、どこで、何が」という記憶。「この前の日曜日、映画を見に行った」「今日、お昼ご飯に、カレーを食べた」「先日、近所のスーパーで、近所の人と会っておしゃべりをした」などです。
一方、意味記憶は、知識のこと。「認知症疾患診療ガイドライン2017」では、オタマジャクシを例にして説明しています。オタマジャクシそのものを知らない人は別にして、オタマジャクシについてもともと知識を持っている人にとって、オタマジャクシという名前、その形、成長するとカエルになるといったことは、意味記憶です。
意味記憶が障害されると、オタマジャクシが何を示す言葉かわからなくなり、実物や写真を見てもオタマジャクシと認識できなくなります。前頭側頭葉変性症の一種で脳の側頭葉前方部の限局性萎縮が生じる「意味性認知症」では、この意味記憶が徐々に障害されていきます。記憶障害があっても意味記憶が保たれていれば、オタマジャクシの知識は維持されます。
さて、アルツハイマーの記憶障害についてですが、一般的に、出来事記憶の障害が中心です。よくされる質問に「この物忘れは、認知症によるものか、それとも年を取ったせいか」があります。認知症による記憶障害の場合、その出来事を忘れてしまう。
すなわち「この前の日曜日、映画を見に行った」という出来事を忘れてしまう。映画のタイトルや出てきた俳優の名前を思い出せない場合は、年を取ったり忙しすぎたりすれば、認知症でなくてもよくあることです。
アルツハイマーの記憶障害で典型的なものとしては、「発症後に起きた新たなことを覚えられない『前向性健忘』から始まり、やがて、発症前のことを思い出せない『逆行性健忘』も生じる」「数分前の出来事を覚えていないが、かなり前(若い頃など)の記憶はある」「初期では自ら思い出せなくても、言われると思い出せる」も挙げられます。
30分ほどの電話の間に、同じ話を2回も3回も繰り返す──。そんな母親の様子が心配になり、健康診断の名目で病院に連れて行ったところ、初期のアルツハイマーが見つかった。こんな話を最近耳にしたばかり。
「物をどこに置いたか忘れてしまう」「同じ物を何度も買ってくる」「同じことを何度も聞く」。これらも、アルツハイマーの発見につながりやすい記憶障害です。