プロスキージャンパー竹内択さん難病との闘い 葛西紀明さんの言葉がなかったら…

公開日: 更新日:

薬さえあれば日常生活に支障はない

 そこからは、いろいろな薬を試しました。ステロイドは1~2年間だけで、その後は月に1回の自己注射をしています。薬をトライアンドエラーした結果、ここ3年ほど使っている薬がとても相性がいいようで、分からなかった嗅覚が戻ってきて、体の方も好調です。

 好酸球の値は正常値の倍ぐらい高めですが、今のところはこれで落ち着いている感じ。薬は経過を見て、必要に応じて変えていくことになると思います。

 ただ、一生打ち続けるだろうことは覚悟しています。

 もし、注射を3~4カ月打たなかったら喘息症状で大変なことになるし、まったく打たなかったら死に近づくんだろうな~と漠然とした思いはあります。けれど、薬さえあれば日常生活に支障はないし、何の後遺症もありません。本当に強いていえば、注射針の痕が赤くなるくらい(笑)。

 ネットで病気のことを調べると、5年生存率が50%だったり、それ以下だったり、以上だったり、いろいろ出てくるんです。いつどうなるか分からないと実感したとき、命に対する考え方が変わりました。「いつまでもゆったりしていられない。やりたいことは早くやらなくちゃ」と思うようになったんです。幸せになりたいし、何かを成し遂げたいし、仲間と築きたいこともある。「いつかなれるでしょう」じゃなくて、掴みに行く自分になりました。

 病気でありながら現役にこだわっているのは、ジャンプが好きだからなのと、そのジャンプの魅力を伝えてジャンプ界の未来を切り開きたいからです。マイナースポーツなので、企業に所属して支えてもらうのが“普通”なんですが、そうじゃなくてスポンサーを自分で集め、いかにエンタメ化して皆さんにお届けするかを模索しています。

 19年に独立してプロジャンプチームを立ち上げたのはそのためです。子供たちのジャンプ大会を催したり、なんで今までやらなかったんだろう、ということに挑戦しています。どこまでできるかって感じなんですけど、うまくいかないことを「じゃ、どうしようか」って考えることが好きなんです。

 病気を知ったときは若干、人生を悲観しました。でも、逆に“称号”を得たみたいな気持ちにもなりました。だって、数十万人に1人の難病ですよ。めったにないことが自分に起こったわけで、人生のストーリーに強烈なエピソードをくれたなと思っています。

 そう思えるのも、発見が早かったからです。同じ病気の人の中には亡くなる人もいれば、炎症反応の影響で指や腕を切断する人もいます。SNSでそういうコメントを見るたびに、発見が早かったことをありがたく思います。

 何より今、現役でジャンプ競技ができていることに感謝です。実は、今日も試合でした。まだ雪はありませんが、スキージャンプは芝でもできるんですよ。大先輩の葛西さんも飛んでいるので、まだまだ頑張らないと(笑)。

(聞き手=松永詠美子)

▽竹内択(たけうち・たく) 1987年、長野県出身。冬季五輪3大会(2010年バンクーバー、14年ソチ、18年平昌)で日本代表になり、ソチでは男子団体銅メダルを獲得。19年に、13年間勤めた北野建設を退社し、「Team Taku」を立ち上げる。現役を続けながら、スキージャンプ界の発展のためにさまざまな活動をしている。

■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人今季3度目の同一カード3連敗…次第に強まる二岡ヘッドへの風当たり

  2. 2

    大阪・関西万博の前売り券が売れないのも当然か?「個人情報規約」の放置が異常すぎる

  3. 3

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  4. 4

    ヤクルト茂木栄五郎 楽天時代、石井監督に「何で俺を使わないんだ!」と腹が立ったことは?

  5. 5

    バンテリンドームの"ホームランテラス"設置決定! 中日野手以上にスカウト陣が大喜びするワケ

  1. 6

    菜々緒&中村アン“稼ぎ頭”2人の明暗…移籍後に出演の「無能の鷹」「おむすび」で賛否

  2. 7

    巨人「先発6番目」争いが若手5人で熾烈!抜け出すのは恐らく…“魔改造コーチ”も太鼓判

  3. 8

    ソフトバンク城島健司CBO「CBOってどんな仕事?」「コーディネーターってどんな役割?」

  4. 9

    テレビでは流れないが…埼玉県八潮市陥没事故 74歳ドライバーの日常と素顔と家庭

  5. 10

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ