著者のコラム一覧
東敬一朗石川県・金沢市「浅ノ川総合病院」薬剤部主任。薬剤師

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

医療で重宝される「生食」には使いにくいケースもある

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 生食の用途はクスリを溶かすだけではありません。先ほど生食は0.9%塩化ナトリウム水溶液だとお話ししましたが、これは血液の濃度(浸透圧)と同じです。そのため、出血などで血液を失って血圧が低下している場合には、血圧を維持するために投与されることもあります。

 また、胃液や腸液などの消化液にもナトリウムがたくさん含まれているので、下痢や嘔吐などで消化液を失った場合の補充としても生食は用いられます。ナトリウムは生体にとって必要な物質なので、たかが塩水と思われるかもしれませんが、医療にとってはとても重要な塩水なのです。

 このように、医療で頻用される生食ですが、注意点もあります。生食にはその名の通り塩が含まれています。腎臓の機能が低下している場合や、心不全などの塩分制限が必要な疾患がある場合には、生食が使いにくいケースもあります。

 抗菌薬を溶解する際、多くの場合100ミリリットルの生食が用いられます。生食は0.9%塩化ナトリウム水溶液なので、生食100ミリリットルには塩が0.9グラム含まれています。抗菌薬を1日2回投与するとなると、その生食だけで塩が1.8グラム投与されることになります。仮に1日7グラムの塩分制限があれば、抗菌薬の投与だけでその3割程度の塩が入ってしまうことになるのです。特に高齢者は生理機能が低下している場合が多いので注意が必要です。まあ、注意するのはわれわれ医療者側なのですが。

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