「依存症」から抜け出すには…“目の見えない精神科医”が説く克服法の真髄
“居場所”がないと人は生きていけない
依存症はたまたま頼り方が不健全になってしまった、頼ってはいけない相手に頼ってしまっただけで、とても人間らしい営みに起因する病気なのです。
私は音楽と文芸が大好きです。ストレスが溜まった日は、仕事の後で誰もいなくなった待合室で数時間ギター弾き語りをすることでストレスを発散しています。そして現実で叶わないことは、小説の中で表現することで心のバランスを保っています。
もし弾き語りは健康被害が大きいので今後禁止、推理小説の執筆は違法になったので今後禁止なんて言われたら、生きていけなくなってしまいます。
居場所は誰にでも絶対に必要。
だから依存症を克服する方法は居場所から追放することではなく、新しい居場所、頼っても害の少ない健全な居場所へお引越しすることなのです。
その「新しい居場所探し」こそが、依存症治療のメインになります。
そしてこの「新しい居場所探し」が網膜色素変性症にも有効。見えなくなった目はもう治せない。「目が見えていた世界」に居座り続けても辛くなるだけ。だから大切なのは、新しい居場所へお引越しすること。
少し寂しいかもしれませんが、目が見えなくても生きていける新世界、喜びを感じられる新大陸の発見こそが、この不治の病の治療法なのです。
「断酒会」という会をご存じでしょうか。
依存症からの回復には、同じ苦労を持つ患者さん同士の語り合いが効果的とされ、定期的に集いが催されています。この集まりもまた、患者さんたちにとってお酒に代わる新たな居場所の1つなのでしょう。私にとって「視覚障害をもつ医療従事者の会ゆいまーる」の集いが、心を支える大切な居場所であるように。
あなたの居場所はどこですか?
自分にとって憩いの居場所を大切にしましょう。ささやかな居場所でも派手な居場所でも大いに結構。人様に迷惑をかけない限り、健康や生活を脅かさない限り、そこはあなたの居場所なのです。
ただどんな居場所でも、時々居心地が悪くなることがあります。火事になって住めなくなることがあります。
ぜひ本宅の居場所の他に、離れや別荘の居場所も持っておきましょう。
健全な「依存」を病気の「依存症」にしないためには、頼り先がいくつかあるのが一番安全です。
▽福場将太(ふくば・しょうた)
医療法人風のすずらん会 美唄すずらんクリニック副院長。1980年広島県呉市生まれ。広島大学附属高等学校卒業後、東京医科大学に進学。在学中に、難病指定疾患「網膜色素変性症」を診断され、視力が低下する葛藤の中で医師免許を取得。2006年、現在の「江別すずらん病院」(北海道江別市)の前身である「美唄希望ヶ丘病院」に精神科医として着任。32歳で完全に失明するが、それから10年以上経過した現在も、患者の顔が見えない状態で精神科医として従事。支援する側と支援される側、両方の視点から得た知見を元に、心病む人たちと向き合っている。