大分県の山奥に巨大男根像の珍スポットを発見! 焼き肉店主を突き動かした狂気にも似た情熱
大分県の山道で車を走らせていると、道路脇から「それ」が目に飛び込んできた。
高さ3メートル以上はあろうかという超巨大な男根像だ。木造で年季のせいか怪しく黒光りしているその姿は、猛々しいだけではなくどこか神々しい。隣には木彫りの竜が控えていて、看板には「幸徳観音」と彫り込まれている。どうやら巨大男根像はご神体のようだ。
巨大男根像の横にある石段を上ると、中が丸見えになっている掘っ立て小屋のような本殿を発見。まじまじと眺める必要もなかった。大、中、小とさまざまな姿かたちのご神体の数々が……。女性器をかたどったものまで複数見受けられた。
「不思議な力を持つ観音様です 心から信心をして下さい」などと書かれた看板には、商売繁盛、縁結び、家内安全、子宝などと、それぞれのご神体の役割が記されている。周囲を物色していると、「キーホルダーの土産もある」という張り紙を発見。売り場は、冒頭の巨大男根像から道路を挟んだところにある「焼肉苑幸徳」とのこと。
日刊ゲンダイ記者は同店を訪ね、幸徳観音がひとりの男の狂気にも似た情熱によってつくられたと知ることになった。
白い目を向けられることも
店主の名は吉良幸徳さん(72)。「今から40年ほど前のことです」と、ゆっくりと語り始めた。
「この地で生まれ育ち、当時から焼き肉屋を営んでいました。同時に、こんな山奥で周囲に何一つ名所や観光地がないことに漠然とした危機感を抱いていたんです。そんな折にふとひらめいた。『自分でつくればいいじゃないか!』とね。男根像に決めた理由はとにかくインパクトがあるでしょ。見たら、『うわぁっ!』って興味を引くことは確かですから」
やると決めたら、迷わなかった。もともと彫刻の経験はなかったが、さっそく丸太を仕入れると、来る日も来る日もノミを突き立て、一心不乱に槌を振った。日を追うごとに手のひらの豆が増え、比例するように次々とご神体が生まれた。
狭い村だ。取りつかれたように男根像に執着する吉良さんの豹変ぶりは瞬く間に噂になった。白い目を向けられることも少なくなかったという。
「子宝に恵まれた」とうれしい報告も
「どれだけバカにされても絶対にやめないと心に決めていました。結果が出る前、中途半端にやめたら本当に『ただのバカ』で終わってしまう。とことん、納得のいくまでやってやろうと。当時から結婚していて、妻は見守ってくれていました。男根像のモデル? そりゃ私のモノとの共通点もたくさんありますよ(笑)」(吉良さん)
次第に口コミなどを通じて幸徳観音の存在が広まり、テレビで紹介されたこともある。インターネットの全盛期を迎えてからは、「珍スポット」として全国から好事家が訪れるまでになった。
「わざわざ店に顔を出して、佐渡島や北海道から参拝に来たと挨拶してくれた方もいらっしゃいます。『おかげさまで子宝に恵まれました』とうれしい報告もありました。店を素通りする参拝者の割合が圧倒的に多いだろうから、かなりの数の方が来てくれているはずです」(吉良さん)
40年前に思い描いた夢は確かに果たされた。今は活動に一区切りつけ、能面の制作に熱を上げているそうだ。
ちなみに、男根像を彫り始めてからバブル景気の追い風もあり、一時期、店は大繁盛。新築に建て替えられるほどに貯金もたまったという。ひょっとすると、凄まじい御利益があるのかもしれない。
(取材・文=杉田帆崇/日刊ゲンダイ)