主力製品ではない手回し式の小型焙煎器「くるくるカンカン」をどうしても造りたかった富士珈機のこだわり
コーヒー焙煎の面白さを伝えたい
その後喫茶店ブームは下火になるが、代わって勃興したのが自家焙煎ブームだ。自分の店で生豆を焙煎したコーヒーを客に提供する店が、急激に増えたのである。
「コーヒー豆の卸会社で働いていた人たちが、独立して小規模で始めたのがきっかけです」
そうした店に小型焙煎器を納めることで、富士珈機は再び日本のコーヒー業界で存在感を高めていく。
その後、スターバックスに代表されるシアトル系コーヒーや、産地や品種にこだわったスペシャルティーコーヒーなど、コーヒーブームが何度か到来。その都度同社は、業者のニーズに応える商品を開発し、時代に適合していく。
そして今、生産地の人権問題や環境問題に目を向けた新しいコーヒーブームが起こりつつある。また丁寧な暮らしというライフスタイルもコロナ前から注目。そんな時代に同社が世に投じたのが、この焙煎器だ。
「最新の業務用焙煎機はコンピューター制御のハイテクマシン。このような手動の器具は、弊社にとっては主力ではないのです。しかしコーヒー焙煎の面白さは、自分の手加減次第でうまくいったりいかなかったり、味が変わったりするところ。均一なものを大量に焙煎する業務用とは対極にあるものですが、コーヒー文化の裾野を広げるためにはどうしても造りたいと思ったのです」
動力は一切なし。豆を入れる焙煎缶と、それを支えるスタンドと回すためのハンドルのみ。シンプルの極致ともいえるそのデザインは、むしろ画一的な商品ばかりの今の世にあっては洗練された印象すら抱く。これに惹かれる中高年が多いのもうなずける。
「生産性とか効率とかそういうことは忘れて、ただ焙煎という作業に没頭してほしい。そして自分と向き合う時間を、楽しんでほしいですね」 =おわり
(取材・文=いからしひろき)
▽福島達男(ふくしま・たつお)1965年、大阪市生まれ。90年4月、富士珈機に入社。焙煎機器の組み立てを経て98年に取締役、2007年に4代目代表取締役に就任。23年4月に手回し式小型焙煎器「くるくるカンカン」を発売。オウンドメディア「てさぐり部」(https://note.com/kurukurucancan/)などを通じて、同商品の普及と焙煎文化の啓蒙に努めている。