キリンビバレッジ 井上一弘社長(1)入社4年目で北海道に飛ばされる
体力に自信のある井上は新入社員の時から、猛烈に動き回る。時代はバブル期。建設工事は数多く、山谷に住む人たちの懐は厚く、ビールはたくさん売れた。
「キリンビールと書かれたライトバンを止めて酒販店を営業して戻ったら、車が大勢に囲まれてしまっていた。幸い、ビールを積んでいなかったので、何とか脱出できました」
危ない経験はそれなりにあったが、決してひるまない。一日に55軒を回るなど訪問数はいつも部内で上位につけ、ビールやウイスキーをたくさん売る。
やがて「自分は仕事ができる」と明確な自信をもつ。あるとき、飲み屋で上司に言った。
「自分を歩合制にして欲しい。自分の10分の1しか働かない先輩方が、僕の3倍の給料をもらっているのは、どう考えてもおかしい。理不尽です」
殿様商売しか知らない営業マンたちは、立ち尽くすばかり。“働かないオジサン”と化していた。上司は、「おまえの言うことはわかるけど、まぁ落ち着けよ」と軽くいなした。が、しばらくすると井上に札幌への異動が命じられる。
「言いたいことを言ったら、北海道に飛ばされました」
北千住には3年半いた。上司も、どうやら殿様商売しか知らないオジサンだった。 (つづく)
(経済ジャーナリスト・永井隆)