元順大監督・澤木啓祐氏に聞く “無観客”箱根駅伝は可能か
観客の応援効果
――例年、往復路で沿道の観衆は延べ100万人以上ともいわれています。主催者が密集、密接を避けるため応援自粛を求めても、沿道がガラガラになることはないと思いますが。
「私もそう思う。毎年、スタートを見てから、2区中継所の1・2キロぐらい手前で観戦し、そこから箱根に向かう。2区では選手が通過する10分ぐらい前になると、ファンの方がどっと集まってきます。みなさん選手のことをよく知っているし、最後のランナーまで応援している。2区だけではない。毎年、自宅近くの沿道応援を楽しみにしている人たちに、『沿道に出てこないで、家でテレビ観戦してください』といって、どれだけの人が聞いてくれるだろうか」
――みんな、そう思っているはずです。
「箱根駅伝は日本テレビの努力による完全生中継と、沿道での大応援でここまでの大会になった。応援効果はとても大きく、これ以上速く走ったらオーバーペースになるという心理的限界や、疲労などを感じる生理的限界を取っ払う。それが時に、信じられない記録につながることがある。沿道の大応援があればこそです。沿道にポツポツしか人がいなければ選手にとってはつらいですよ。無観客で試合をやっていたプロ野球選手に話を聞いてみたいですね」
――主催者はコロナの感染防止を考え、無観客の方針を打ち出したわけですが、箱根駅伝予選会(東京・立川、10月17日)出場チームに向けての諸連絡について、現場からは内容が厳しすぎるという声が出ています。
「それは知っています」
■ケース・バイ・ケースの対応
――箱根駅伝は大学にとって最大のイベントといっても過言ではありません。自分が感染してチームが大会に出られなくなれば責任を感じ、自殺者が出るのではと、心配する指導者もいます。
「感染者、濃厚接触者について具体的に明記しているので、あれはガイドラインと見るべきです。例えば、予選会の3週間前から部員や指導者などがPCR検査、抗原検査において『陽性』反応が出れば、いかなる場合でも、チームとして出場を認めませんとあるが、今は合宿所を2、3カ所に分散している大学もあるし、自宅から通っている部員もいる。順大の合宿は2人で1部屋から1人1部屋にしている。合宿所の実態や練習拠点など、大学によって異なる。実態にあった対応をするべきではないか」
――無観客開催に話を戻せば、高校野球連盟は入場者をコントロールできる甲子園大会を中止にしました。箱根駅伝の無観客開催は、ファンの意識、モラル頼みです。
「だからこそ、厳しすぎるというハードルを設けたのではないか」
――「ここまでやっている」ということを世間にアピールするためですか。それは大会開催に対する批判を和らげようという意図ですか。
「2日間公道を使ってのイベントですから、コロナ感染が終息していなければ、対策などに厳しいものが求められるのは当然です。一方で先も述べたように、関東学連は大学の実態をよく調べて、感染者が出た場合はケース・バイ・ケースで対応するべきです。4年生は箱根駅伝の活躍が就職に影響する。難問は多いですが、どうにか開催を実現させ、練習の成果を見せて欲しいですね」
年末年始にはコロナ感染の「第3波」がやってくるともいわれている。関係者の不安は尽きない。
(聞き手=塙雄一/日刊ゲンダイ)