五輪開催「力強い支持」のマヤカシ G7首脳は塩対応だった
「安全・安心な形で東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を開催することに対する我々の支持を改めて表明する」――。13日に閉幕したG7サミットの共同声明に盛り込まれた一文だ。菅首相は閉幕後、「全首脳から大変力強い支持をいただいた」と胸を張ったが、うのみにしてはいけない。そんな大仰な話ではないからだ。
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五輪支持の文言が入ったのは、共同声明の「結語」。声明の原文(英語)は全25ページ、約1万4000語にも及ぶが、五輪に触れた箇所は最終段落の末尾から3行足らず。たった30語句に過ぎない。菅首相が開催支持の取り付けにシャカリキになっていた割に、付け足し感がアリアリだ。
「『結語』だけに盛り込んだのは、サミットで正式な議論を経ていないからだと考えられます。声明をまとめる最終段階で、日本政府の事務方が文言を調整して差し込んだのではないか」(元外務官僚)
問題の文言は、2月のオンラインサミットで採択された「(安全・安心な五輪を)開催するという日本の決意を支持する」とほぼ同じ。支持の対象が「決意」から「開催」に変わったとはいえ、原文をよーく見比べるとG7の立場に変わりはない。国際ジャーナリストの春名幹男氏がこう指摘する。
「外務省は『改めて表明』と訳しましたが、今回の声明では支持にかかる言葉に『reiterate(繰り返す)』を使っている。2月の声明から新たな立場を表明したわけではありません。開催支持を取り付けたい菅首相の意を酌んだのでしょうが、『あえて反対する理由がない』といったニュアンスに過ぎません」
相変わらず「やりたければどうぞ」
要するに、菅首相が「安全・安心な五輪開催」と言っている以上、“やりたければどうぞ”。G7として特段、否定するつもりはないということだ。
そもそも、菅首相はイタリアのドラギ首相と会談していないし、ドイツのメルケル首相との会談では五輪の話題すら出なかったという。共同声明を理由に「全首脳から支持」との言い分が成り立つとしても、G7各国による報道発表からは温度差が漂う。各国政府の公式サイトによると、菅首相との会談内容はザッと次の通りだ。
「(ジョンソン)首相は東京五輪への支持を表明し、安全な大会実施に向けた日本の努力を歓迎した」(イギリス)
「(バイデン大統領は)選手やスタッフ、観客を守るために必要な公衆衛生対策を講じた上で、開催に向けた動きへの支持を確認した」(アメリカ)
「(トルドー)首相は、安心・安全な大会の開催に向けた日本の努力に支持を表明した」(カナダ)
英米加3カ国は日本の「努力」への支持にとどまる“塩対応”。菅首相との会談で「開会式への出席を楽しみにしている」と踏み込んだのは、マクロン仏大統領のみ。フランスは次の夏季五輪の開催国。その点を差し引いて考える必要がある。
独伊の両首脳から開催支持の言質を取れなかったことも踏まえれば、「全首脳から力強い支持を得た」なんて表現は、いくら何でも誇張が過ぎる。
「サミットはよほどのことがない限り、各国の利益に配慮して進みます。五輪開催がサミットのメインテーマではない以上、支持の文言は言ってみれば“飾り”みたいなもの。『力強い』かどうかは菅首相の主観に過ぎず、胸を張れるほどの内容ではないのです」(春名幹夫氏)
五輪の主催者じゃないクセにG7では主催者ヅラ。国内のコロナ対応に誠実に向き合って国民の「力強い支持」を得た方がいい。