「つげ義春 夢と旅の世界」つげ義春・山下裕二・戌井昭人・東村アキコ著
1960年代から70年代にかけて、旺盛な創作活動を続けてきた氏は、山奥での隠棲を夢想し、ボロ宿を好んで日本中を旅して回っていた。そうした旅の経験から生まれた「紅い花」と「ゲンセンカン主人」も収録。さらに、旅先で撮影された写真も併せて紹介する。路地からお面をかぶった少女が飛び出てきたという福島県の西山温泉付近で撮影された写真などは、まるで氏の作品の一場面を彷彿させる。
休筆から25年以上を経て、氏は体調や私生活の事情で作品を描くことはもうないと語っている。マンガ表現の新しい地平を切り開いた氏の足跡がたどれる格好の入門書だ。
(新潮社 1800円)