「カラー版 廃線紀行 もうひとつの鉄道旅」梯久美子著
廃線を歩けば、車窓から見える風景とはまた違った景色が見えてくる。雑草の陰に隠れたキロポスト、錆びた信号機や警報機、ホームの痕跡、そして線路跡が転用されたと思われる道路など、往時の姿を想像しながらの散策はまさに鉄道探偵の気分だ。
意外にも東京にも廃線跡はある。国鉄越中島駅から延びる深川線から分岐した「東京都港湾局専用線 晴海線」だ。
かつて「陸軍鉄道聯隊」が配備されていた千葉公園には、演習で構築されたわずか数メートルのトンネルが残り、奇妙な景観をつくりだしている。
かと思えば、廃止後にほぼ全線が自転車専用道に整備され、廃線サイクリングが楽しめる「大分交通耶馬渓線」などの「絶景廃線」もある。その他、琵琶湖疏流の水位の差が大きくて船が運航できない区間に敷設された、船を運ぶための鉄道「蹴上インクライン」といった変わり種、そして100年以上も昔の明治40年に廃止され今はハイキングコースとして親しまれる「関西鉄道大仏線」など。
廃線歩きは、水平方向に移動する地理的な旅だが、「過去に向かって垂直方向にさかのぼる歴史の旅」でもあると著者は語る。土地土地に記憶された歴史に思いを馳せながらの廃線歩き、意外にも手軽なコースも多数あり、ひとたび歩き始めたら癖になりそうな魅力に満ちている。(中央公論新社 1000円+税)