「グループサウンズ文化論」稲増龍夫氏
著者は、80年代に深夜放送で聴いたのを機に、突如グループサウンズ(GS)にハマった。
GSが流行した中学・高校時代は「子供っぽい」と傾倒せず、ロック、ジャズの愛好家となり、1万枚のジャズレコードを持っていたが、その半分を処分してGSのレコード集めに邁進。30年間に、合計600万円を投入してGSのシングル盤435枚をパーフェクト・コレクションした異色のメディア文化論研究者だ。
「2013年12月、東京ドームであったザ・タイガースの再結成コンサートに行ったんです。沢田研二らオリジナルメンバー5人の44年ぶりの結集だったんですが、明らかに50代以上と思える5万人近い観客が2時間総スタンディングで、すごい熱狂状態で大いに盛り上がっていました。ところが、中高年の“懐メロ大会”でしかないと判断されたせいか、メディアにほとんど取り上げられなかったんですね。私はすごく感動したのに、これはおかしい、中高年をあそこまで熱狂させるには何かあるはずだ、放っておくのはヤバいと思ったのが、この本をまとめたきっかけでした」
GSの時代は1960年代後半。ザ・スパイダース、ザ・テンプターズ、オックス、ザ・カーナビーツらに、レコードデビューできなかったグループを含めると、その数は1000を超えた。
長髪で派手な服。エレキギターなどが大音量で響き、観客の女の子たちが「きゃ~」と騒ぐ。大人が白い目で見る。
当時のファン人口はビートルズよりも多かったにもかかわらず、「時代の徒花」でしかないと、きちんと評価されてこなかった、と著者は言う。
本書にはGSの渦中にいた宇崎竜童、近田春夫、湯川れい子、すぎやまこういち、きたやまおさむ氏ら当時の関係者総勢14人が登場。GSが果たした歴史的意義を当時の時代状況と絡めて総括していく対談集だ。
「タイガースのメンバーだった岸部一徳さんが、GSは『女の子相手のミーハーなブームだったが、片一方では学生運動で騒然としている時代だった。その空気とは通じるところがあった』と話されていましたが、まさに同感です。学生運動をするのは志が高い若者で、GSは程度が低い若者。天地の隔たりがあると思われてきたのは間違いで、どちらも根っこは同じなんですよ。若者が発言を始めた時代にあって、一方は政治に、もう一方は音楽でGSに向いただけなのです」
学生運動が「旧来の政治を打ち壊したい」というエネルギーの爆発だったとするなら、「プロデューサーの言いなりにならず、自分たちのやりたい音楽を」と始まったGSも、旧来の道徳観、価値観への「異議申し立て」で、どちらも「自己表現」という点では同じだったという。観客の若者側も同様に、親や教師がGSのコンサートに行くことを禁じても、押し寄せるという、「自己表現」だった。
「多くのGSを売り出したホリプロの設立者・堀威夫さんは、従来は作詞・作曲にレコード会社の帰属者を起用する決まりだったが、GSでフリーランスの作家を起用するようになったと話してくれました。GSは、まさに音楽業界も変えたのです」
GSは70年代初めに衰退した。「アイドル化」「歌謡曲化」が進行すると共に、音楽性の高い「ニューロック」というジャンルに音楽業界がシフトしたことが一因だ。学生運動がフェードダウンする時期とも重なる。
「GSは、土着の歌謡曲と欧米のロックが化学反応を起こして融合した、素晴らしい民族音楽だったと考えています。かつてのファンの皆さんに、GSが与えてくれた熱いソウルを忘れず、『今』を生きていこうじゃありませんかと言いたいですね」
(中央公論新社 1600円+税)
▽いなます・たつお 1952年東京都生まれ。東京大学大学院社会学研究科社会心理学専攻修士課程修了。法政大学社会学部教授。専門はメディア文化論。アイドルからネットまで、研究フィールドは幅広い。著書に「アイドル工学」「フリッパーズ・テレビ~TV文化の近未来形」「パンドラのメディア―テレビは時代をどう変えたのか」などがある。