「朝日ぎらい」橘玲著/朝日新聞出版/810円+税

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 タイトルだけを見ると「朝日新聞的」なものをボコボコに叩く本と思われるかもしれないが、そういうわけではない。「リベラル」と「保守」のありようについて各種データを読み解き、解説した本であり、バランスが取れた論調を取る書である。

 若者が安倍政権を支持している理由については「若者が右傾化した」と分析される向きもあるが、著者はこれを明確にデータを基に否定する。

〈政党の位置は年齢が下がるにつれて変わっていき、18~29歳ではもっとも保守的なのが公明党、次いで共産党、民進党で、自民党は中道、もっともリベラルなのが維新になっている。驚くべきことに、いまの若者は共産党を「右派」、維新を「左派」とみなしているのだ〉

 そのうえで、若者は昔も今も一貫してリベラルであることを示す。私自身はネットニュースの編集業務をこの12年やり続けているが、第2次安倍政権発足以降、「リベラル」の弱体化を感じる。本書を読むとそう至った理由はよく分かるのだが、著者はリベラルの側にいる人間であるにもかかわらず、「ネトウヨ」扱いをされたこともあるという。これはご本人に会った時に知らされた。

 恐らくリベラルを自称する人々は、自分自身が「抑圧された民」のように現在の状況を捉えているのではなかろうか。「安倍1強」が続くことにより苛立ちを募らせ、揚げ句の果てには安倍晋三氏を「ヒトラー」と呼び始める。

 こうなると荒唐無稽な話になってくるが、彼らは本気で安倍氏がヒトラーに並ぶ独裁者的存在だと考えているのである。だからこそ、官邸前のデモでは安倍氏の顔写真にヒトラー風のチョビひげをつけたプラカードを掲げるのだ。だが、「アベ政治を許さない」というプラカードを掲げる人々はデモをきちんと行えているわけだし、ツイッターでも自由にアベ批判はしている。安倍氏をヒトラーと同様に扱うのはまったくもって意味が分からない。

 著者は今回の同書について「朝日新聞出版以外では出せなかった」と述べる。現在のネットを覆う「朝日ぎらい」的な風潮を除去するには、この方法しかなかったのだろう。同書をいわゆる「右派」系の出版社が出した場合、著者に対しては「差別主義者」のレッテルが貼られるほか、意図していない右派からの余計な支援が寄せられたことだろう。

 そういった先入観を置いてまずは読んで欲しい書である。 ★★★(選者・中川淳一郎)

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