「ハーバード大学のボブ・ディラン講義」リチャード・F・トーマス著 萩原健太監修 森本美樹訳
2001年9月11日に発売されたアルバム「ラヴ・アンド・セフト」の中に「ロンサム・デイ・ブルース」という曲がある。その一節、「俺は負かした奴らを救う、おい、はっきり言っておく(中略)」という歌詞の言い回しや韻の踏み方の元にあるのは、古代ローマの詩人ウェルギリウスの思いや言葉であり、それをディラン流に言い換えているという。
事実、ウェルギリウスの作品「アエネーイス」では、「ローマ人よ すべてはな汝の手にかかっているのを忘れるな」とつづられている。また、ローマ時代の叙情詩人・カトゥルスの詩とディランのそれには「失われた愛」という共通のテーマが見え、聴き手に解釈をゆだねる「風に吹かれて」は、ローマの詩の芸術性を踏襲しているという。
本書はハーバード大学の古典文学の教授であり、ディランマニアである著者が2004年から16年に開催したボブ・ディラン講義の記録。ディランの歌詞を取り上げながら作品と時代との関係性、彼の才能が長きにわたり古代ギリシャとローマからどのようにヒントを得てきたのかを紹介する。
16年度のノーベル文学賞を受賞したディランの豊かな詩情に改めて気づかされる一冊。
(YAMAHA 2700円+税)