「小説集 徳川家康」鷲尾雨工ほか著 三田誠広解説
岡崎城主・松平広忠に輿入れした於大は、天文11(1542)年3月、三河随一の霊場・鳳来寺の薬師堂に7日間籠もり、男児の懐妊を祈願。結願の朝、夢の中で薬師如来から堂に安置された12神将のうち、第3の寅の神、真達羅(しんだら)大将をもって希代な優秀児を授けると告げられる。
まもなく懐妊した於大は12月27日に玉のような男子を出産する。新年、鳳来寺に礼参した松平家の重臣たちが薬師堂に入ると、真達羅大将が消えていた。阿闍梨(あじゃり)によると開基以来850年、例がない奇跡の示現だという。城内は喜びに沸くが、ただひとり広忠だけは歓喜に陶酔することができなかった。
一方、齢95歳になる広忠の曽祖父道閲はやしゃごの誕生を人一倍喜び、「松平家に天下人が生まれた」と明けても暮れても繰り返す。広忠の恐れていた通り、その噂が今川義元の耳に届いてしまう。
この鷲尾雨工著「若き家康」をはじめ、岡本綺堂や坂口安吾ら往年の大作家たちによる家康作品を編んだ作品集。
(作品社 1980円)