「つげ義春流れ雲旅」つげ義春、大崎紀夫、北井一夫著
「つげ義春流れ雲旅」つげ義春、大崎紀夫、北井一夫著
岩手県にある夏油(げとう)温泉を訪れたつげと大崎らは、どう見ても山賊集落にしか見えないようなたたずまいの宿で、湯治に来ていた600人のおばあさんたちに出会う。7棟の宿は満室で1部屋に4人から8人くらいが泊まるありさまだったが、おばあさんたちは皆陽気で、昼間から酒を飲み、歌い、部屋の前を通ると招き入れてお茶や山菜料理でもてなしてくれた。
八幡平の蒸ノ湯(ふけのゆ)には湯治客が置いていったマンガが至る所に散らばっており、老人までもがマンガを読むのかと改めて読者層の広さに感心したという。
1969年から75年にかけて、漫画家・つげ義春、写真家・北井一夫、記者の大崎紀夫の3人が下北半島や四国などを旅した記録を50年ぶりに復刊。夏油温泉や蒸ノ湯を紹介した「東北湯治場旅」は絵、写真、文章をつげ自身が担当。当時のひなびた地方の原風景が、文章とモノクロ写真の中から立ち上ってくる。
興味深いのは、つげの妻を含めた5人での放談再録。夫婦2人旅では、つげが文句ばかり言っていること、一人旅に出掛けるときには3日前から緊張するなど、つげの知られざる一面をのぞかせる。
巻末には50年ぶりの3人の再会が写真とともに収載されており、現在85歳のつげが、旅の記憶を語っている。
(朝日新聞出版 2860円)