「真珠とダイヤモンド」(上・下)桐野夏生著
「真珠とダイヤモンド」(上・下)桐野夏生著
1986年、地元の高校を卒業した伊東水矢子は、萬三証券株式会社に入社した。中学時代に父親が病死したため、大学進学が難しかった水矢子は、給与の良い証券会社で金を貯めてから大学に行くつもりだったのだ。
お茶くみやコピー取りなど雑務をこなす補佐的業務をする水矢子は、「フロントレディ」と呼ばれる窓口業務に就いた短大卒の小島佳那に憧れた。結婚相手を探しに来ている同僚に陰口を言われ、仲間外れにされても凜(りん)としている佳那と、フロントレディたちとは高卒事務員という立場で一線を画されていた水矢子は互いに親しみを感じて仲良くなっていった。
そんなある日、なりふりかまわず出世をもくろむ同期の望月昭平が、野心的な佳那と組んで大勝負に乗り出すのだが……。
証券会社を舞台に、バブル期の狂乱に巻き込まれていった若者たちの運命を描いた話題作。多くの若者が夢を描き、上昇志向をギラつかせていた時代の空気感と、その後の顛末がリアルだ。熱に浮かされたようなマネーゲームに取りつかれた一時代のエネルギーと、そこから反転して現実に直面した人々の本音が伝わってくる。
(毎日新聞出版 上巻1760円 下巻1650円)