「からだの美」小川洋子著
「からだの美」小川洋子著
チェスは盤のマス目が8×8で中心がないと羽生善治九段は言う。9×9の将棋盤には中心があり、そのマス目の中に人間が最高の知力をもって挑んでも解明できない謎がある。
もはや一手のミスも許されない終盤でギリギリ道筋が見えたとき、羽生の手は震える。羽生の前には誰の足跡も残っていない、果てしない暗闇が広がっている。右手中指の先にあるのは枠を超えた未来であり、羽生の指は将棋盤の中心に渦巻く宇宙の摂理と共鳴して震えるのだ。(「棋士の中指」)
ほかに、文楽の人形の空洞になっている胴体に手を差し入れて恋心や憎悪を表現するなど、人の体をテーマにしたエッセー集。 (文藝春秋 1760円)