「奇病庭園」川野芽生著
「奇病庭園」川野芽生著
文書館の地下房で暮らしている極貧の写字生は、通信局長の部屋で持ち出し厳禁の重要な手紙を書き写す仕事をしていた。ほかの者が帰った後、ひとり残って仕事をしていたとき、ペン先を腕に刺してしまい、引き抜いた拍子に血が混じったインクが飛んで、局長が大切にしていた美しい「有角老人頭部」に降りかかった。その染みは見る間に消えたのだが、そのとき、「どうせなら、内側に血を垂らしてほしい」というかすかな声が聞こえた。
写字生が「頭部」の内側の深紅の結晶質に血を垂らすと、「わたしの思考はすっかり結晶化してしまったが、あんたが液体を注いでくれたから少しは考えも動くことができる」と「頭部」が言った。
翼を生やした妊婦など、奇妙な登場人物たちが繰り広げる幻想的な長編小説。
(文藝春秋 2200円)