現実の外科医は「私、失敗したくないので」がスタートライン
もちろん、手術中に非常事態が起こるケースもありますが、起こりうる可能性と、それに対する処置についてもしっかり事前に想定しているため、慌てることはありません。これまでの経験値もあって、自然と手が動きます。やはり、予定手術は準備が何より大切といえます。
現代の外科医のヒロインは大門未知子かもしれませんが、かつて外科医のヒーロー的な存在はブラック・ジャックでした。手塚治虫さんが描いたマンガの主人公で、医師免許を取得しないまま、天才的な手術の腕であらゆる難病やケガの患者を救います。
もちろん、医師免許がなければ医療行為はできませんし、医師免許を持たないブラック・ジャックは「医師」ではありません。しかし、ブラック・ジャックは「医者」であると私は思っています。医師も医者も病気の診療や治療をなりわいにしている人を指しますが、私は医師というのは「目の前の病気を自分の手で管理する者」、医者は「患者の将来まで予測して病人を診る者」ではないかと考えています。その点、ブラック・ジャックは医者であるといえるでしょう。
「先生は医師ですか? 医者ですか?」と尋ねられた時、私は「医者です」と答えています。