肺がんで亡くなった祖母の手にはめられた白い手袋には紐がつながれていた
さっそく外してもらうと、Kさんは眠ってしまいました。
■「家に帰ろう」と言われたが…
さらに、担当医からこんな説明も受けました。「スタッフとのカンファレンスで手袋が必要かどうかを検討しました。おうちの方にご了解いただきたいと思っていました。もう少し紐を長くしてみます。胃ろうも検討したのですが、外科では『胸水があって、胃ろうを作るのは危険』という意見でした」
Fさんは、「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」と頭を下げて帰りました。
2日後の夜、Fさんが再び病室を訪ねると、やはりKさんの手には手袋と白い紐がついていました。Fさんの顔を見たKさんは、「あ、迎えに来てくれた。家に帰ろう」と口にしました。さらに、「あなたではない。私にはS子という娘がいたのです。S子を呼んでください。私は家に帰るのです」と言うのです。
「私を誰だか分からなくなるなんて……」
Fさんはとてもショックでした。しかし、このまま病院にお願いするしかない。「家に帰りたい」と言われても、どうすることもできませんでした。