医師は病気を治せない。良くなるお手伝いをしているだけ
「病気が治る」という言葉があります。また、「症状が良くなる」という言葉もあります。
たとえばお腹が痛い方がいて、原因が末期がんであるとします。末期がんが治ってお腹が痛くなくなれば最高ですが、そういうことはほとんどありません。
しかしながら、末期がんは治らないけれど、お腹の痛みを改善することは医療者側の努力で可能です。これを私たちは「良くなる」という言葉で捉えています。
医療者としての経験が長くなるほど、治らない病気がいかに多いかということをしばしば認識させられます。
誤解を恐れずに言うならば、私たち医師は病気を「治す」ことはできない。あくまでも、患者さんが自分で良くなっていこうとするお手伝いをしているだけなのです。
特に在宅医療では、医師が病気を治そうとすると、逆に患者さんに負担がかかってしまう。患者さんが穏やかに過ごしたいと望む、残された貴重な時間を台無しにしてしまうケースもままあります。
医療漫画の金字塔ともいえる手塚治虫の「ブラック・ジャック」に、「ちぢむ!!」というタイトルの話があります。ここには、「治せる」と考える医師のおごりと、自然の運命との乖離が描かれています。