お笑い評論家の西条昇さん「キンケツ症」と告げられて思わず…
西条昇さん(大学教授・お笑い評論家/57歳)=急性腎盂腎炎/菌血症
2019年4月に約1カ月間、入院しました。54歳のそのときまで大病をしたことがなかったので、「いよいよ弱ってきたな」と思い、気になって54歳で亡くなった人を調べてみたんです。すると、先代の林家三平師匠や先代の金原亭馬生師匠(女優・池波志乃の父)、喜劇俳優の堺駿二さん(歌手・堺正章の父)の名前があり、愕然としました。
当時子供だった自分の目には高齢に見えましたが、今の自分の年齢だと知り、改めて若くして亡くなったことを思うと同時に、死がリアルで身近になりました。
痛みは突然でした。大学の入学式だった日に、同僚の先生方と浅草で軽く飲んで帰った夜、腰のやや上辺り、特に左側の腎臓の内側あたりに差し込むような痛みがきました。経験したことのない痛みにロキソニン(鎮痛薬)を飲みましたが、眠れません。さらに、深夜には悪寒に襲われ、歯の根が合わないくらいブルブル震え出したのです。熱を測ると40度近くありました。
「風邪かな」と思い、翌日、大学病院に行って血液検査をすると、その次の日に入院になりました。病名は分かりませんでしたが、健康ならほとんど検出されない炎症反応の数値が異常に高くて、先生方がざわついたのです。盲腸で「10」程度のところ、「30」もありました。
再び血液検査が行われ、その日は家に帰って入院準備となりました。いつまで入院するかも決まっていない中、大学に事情を話し、授業は当面休講。講演会などもキャンセルせざるを得ませんでした。しかし、数本抱えていた雑誌の連載は休むことができず、病室で書くために3~4週分の資料、10冊以上の本をかばんに詰めなければなりませんでした。
そんな入院当日の朝、主治医から携帯電話に着信があり、「西条さんの病名が分かりました」と重々しい口調が聞こえてきました。すごくドキドキするじゃないですか。でも次の瞬間、「キンケツ症です」と言われたのです。思わず、「は? 金欠病ならたまになりますけど」と言ってしまったくらい気が抜けました。でも実は「菌血症」という病気で、無菌でなければいけない血液中に菌が認められる状態でした。
歯の治療やケガなどが原因で起こるケースがあるというので、「電気毛布の低温ヤケドか?」「飼い猫に引っかかれ続けているこの傷か?」などと思い、入院後にCTやMRIと並行して院内のいろいろな科で検査をしました。
尿意があるたびに看護師さんを呼んで…
翌日、MRIの結果が出て、「急性腎盂腎炎」と診断されました。この病気は、腎臓の根本にある腎盂に細菌が付着して炎症を起こす感染症です。
やれることは点滴しかないとのことで抗生物質や炎症を抑える点滴をしましたが、40度近い熱は1週間続きました。その間、氷枕は目まぐるしく交換され、大量の水分を摂取しました。痛みでトイレに自力で行けないので、尿意があるたびに看護師さんを呼んで尿瓶に採取していましたね。連載の原稿も書かなければなりませんし、最初の1週間は本当にきつかったです。
でも2週目には自力でトイレにも行けるようになり、その後は炎症反応や熱も落ち着いて、検査で菌が心臓に達していないことが確認できたため退院となりました。
最後の1週間は体も楽で時間もあったので、2万字に及ぶ論文を書いていました。昭和の額縁ショーからストリップブームまでの歴史をね、ベッドの上で……(笑)。
おかげさまで治りましたけれど、死が身近に感じられた分、「まだ死にたくない」「まだやりたいことがある」とつくづく思い、この機会にお酒や食事の取り方を改めました。
肝臓が強いのか、お酒はいくら飲んでも潰れたことがなく、体を壊すこともなかったので飲食に無頓着だったんです。でも、今はカロリーや塩分を気にするようになりましたし、お酒もお付き合い程度。家では飲みません。1日30~50分くらいウオーキングもやっています。駅から大学までバスを使わないようにしているんです。
私は幼い頃から芸人が好きで、友達が野球やサッカーに夢中になるように喜劇や演芸に夢中になっていた子供でした。16歳で落語の師匠に付いて修業しましたし、ジャニーズ事務所のオーディションを受けたときの履歴書に「ジャニーズでお笑いがやりたい」と書いたら、ジャニーさんが面白がってくれてレッスンに通ったりもしました。20代の頃に映画「キネマの天地」のオーディションに合格して撮影に参加し、その後も放送作家としてお笑い番組に深く関わってきました。
それを踏まえて、お笑いの歴史や周辺情報を調べると、面白いことがたくさん分かるのです。それを後世にも残したい。病気をしてより一層、自分だからできることにフォーカスしてアウトプットしていきたい気持ちが強くなりました。
(聞き手=松永詠美子)
▽西条昇(さいじょう・のぼる)1964年、東京都生まれ。88年に「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」(TBS系)で放送作家デビュー。以降、数々のお笑い番組に構成作家として携わり、雑誌などで浅草芸能史や大衆芸能史を執筆。江戸川大学のマス・コミュニケーション学科で教壇に立つ傍ら、ジャニーズ研究家、アイドル評論家の顔も持ち、幅広く活躍している。
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